ウィーンで暮らすようになって、すでに二十年が経ちました。 この二十年間、西洋絵画の古典的な技法により、私はおもに静物画を制作してきましたが、最近は、このウィーンというユニークな都市が持つ独特な雰囲気やセンスを、身近にある様々な小道具や果物などを使って、いかに表現すべきか、と考えながら静物画を描いています。
——作品について
我が家は建物の最上階(日本式に言うと6階)に有り、道が狭く建物が高いこちらでは、一階や二階の住宅に較べて、約二倍は明るいのではないかと思います。
窓はすべて、少し東よりの北東を向いており、アトリエにしている部屋もそうなので、春から夏に開けての早朝以外は、直射日光は部屋に入って来ません。 ですから、ほぼいつも安定した同じ方向の光源で絵が描けます。しかし、それでも一日アトリエに座っていると、その一日の中でも時刻によって光の色が違うのがよく分かります。
特に、昼食後の午後二時を過ぎて、道を隔てた向かいの建物に日光が当たる頃から、アトリエの白い壁に映る、窓からの光やモチーフの影が、微妙な色合いを帯び始めます。 窓から室内に入ってくる光に、空からだけではなく向かいの建物の壁に反射する日光も含まれ、更にその光が室内の白壁に反射します。
そして、白いテーブルクロスやバックの白壁に落ちるモチーフの影には、室内に反射した光が映って暖かい色味を帯び、何故かその影の周りには微かにうすい青紫色が、まるでオーラのように取り囲んでいて、何とも言えず美しいのです。
こういう微妙な美しさに気付いたのは2005年の夏を過ぎた頃からだったように思います。 細い面相筆だけで描いていた頃は、厳密な形だけを追い求めていて見えていなかったものが、年をとって老眼になる事によって、にわかに見えてきたようです。
モチーフがおかれた空間に満ちる光、モチーフ同士の関係の響き合い、そういった物から醸し出される雰囲気や気分、そういう物を虚心に写し取ろうとする私が感じている至福感。 私の絵を見る人に、それらすべてを感じて頂きたい、そう思いつつ日々制作に励んでいます。